言いたくはないが敢えて苦言。安倍内閣は予備費を何に使ったのか
2020.04.15
元国税調査官で作家の大村大次郎さんは、わが国が他国のように新型コロナウイルス感染対策に予算を割けない原因として、安倍内閣後の予備費削減の事実を明らかにしました。
今回は、その削減された予備費が、安倍内閣や自民党の身内とも言える支持基盤へバラ撒かれている事実を詳らかにしています。大村さんは、隙あらば身内優遇に走ろうとする現政権が、今後組まれる新型コロナ対策の特別な予算をどう使うのか、厳しい目を向ける必要があると指摘しています。
*安倍内閣のケチケチぶりは予備費削減のせい
前々回(3月1日号)で、安倍内閣になってから日本の予算の「予備費」が大幅に削られているということ、をご紹介しました。そして予備費が削られたために日本政府は「何かあったときにすぐに対応できない」状態になっていたということをご説明しました。前回にお約束したように今回は、「安倍内閣は予備費を大幅に削って、その予算を何に使ったのか?」ということをご紹介したいと思います。
正直、今回、この記事を書くかどうか非常に迷いました。
世界的な大惨事の中、一致団結してこの危機を乗り越えなくてはならない時期であり、なるべく政府の要請には協力すべきだと思われ、政権の足を引っ張るような記事を書くべきではないのではないか、と。
が、新型コロナウィルスの経済対策で、「お肉券」や「お魚券」を支給しようする愚行を見たとき、やはりこの政権は目を離すとすぐに利権に動いてしまう、それをけん制するためにも、批判は必要だと思いいたり、この記事を掲載しています。
まずは、安倍内閣での予備費の推移をもう一度確認しておきたいと思います。下が昨今の日本の予備費の推移です。
2009年度 2兆3425億円
2010年度 3兆2025億円
2011年度 2兆2095億円
2012年度 3兆4253億円
2013年度(安倍政権)1兆6626億円
2014年度 ↓ 1兆6236億円
2015年度 1兆6335億円
2016年度 1兆4822億円
2017年度 1兆4677億円
2018年度 1兆3217億円
2019年度 1兆5341億円
財務省統計表18表より(経済対策予備費、復興予備など予備費全般を含む)
この推移を見ると安倍内閣になってから予備費が1兆円~2兆円減っていることがわかります。
もともと2兆円から3兆円しかない予備を1兆円以上も削るのですから、そりゃあ、何か起こった時に対応できないだろう、ということです。
日本政府がコロナ対策で動いたことといえば、国民に自粛を要請することばかりです。
イベントの中止要請、外出自粛、飲食店への出入りの自粛等々。しかもこの自粛に際して、経済的な打撃を受ける人たちへの補償は示されていませんでした。国民の批判を受けて、今になってようやく補償に関して検討していますが。
それもこれも日本政府には、財源の余裕がないからなのです。
いや、日本政府は100兆円の規模を持っているのですが、その予算の使い道は族議員等によってガチガチに支配されているので、いざというときに出せるお金がないのです。首相が非常事態宣言をなかなか出せないのも、非常事態宣言で経済打撃を受けた人々に対する補償ができないからなのです。
欧米諸国が、国民に手厚い補償をしてロックダウンをしたことを見れば、日本政府のケチケチぶりは一目瞭然です。
*そもそも予備費が大きく増減すること自体おかしい
そもそも先進国の歳出というのは、それほど各項目の金額増減があるものではありません。各項目の大枠はある程度決まっていて、議会などで決められるのは微調整や臨時的に必要な支出についてだけなのです。日本のように「予備費」が政権交代によって半減するなどということは、欧米の先進国ではほぼあり得ないことなのです。
日本の場合は、なぜか歳出の各項目について、毎年、毎年、一から決められる建前になっており、かなり増減幅が生じるのです。つまり、予算決定の仕組みにおいて、政治家や財務官僚の裁量の余地が大きいのです。またこのことが、政治の腐敗や財務官僚の権力巨大化につながっているのです。
また本来、予備費というのは、予算の中で決められた割合でストックされるものなのです。政権の裁量で増減されるというのは、おかしいことですし、日本の歳出の大きな欠陥でもあるのです。これは日本の財政の大きな欠陥ではありますが、今回のテーマからははずれるのでこれ以上は言及しません。
*社会保障関連費と防衛費の増額は仕方がないとしても
では、安倍内閣になってから増加した予算項目を見ていきますね。安倍内閣になって増加した歳出項目には、まず社会保障関係費があります。が、この社会保障関係費は逓増という感じであり、また安倍内閣以前からずっと増え続けているので、安倍内閣に限って増加した予算とは言えません。国の歳出から出した社会保障関係費は次の通りなのです。
平成23年度 28.3兆円
平成24年度 28.9兆円
平成25年度(安倍内閣)29.1兆円
平成26年度 ↓ 30.5兆円
平成27年度 31.5兆円
平成28年度 32.0兆円
平成29年度 32.5兆円
平成30年度 33.0兆円
厚生労働省作成資料「最近の社会保障関係費の伸びについて」より
この社会保障関連費の推移を見ると、高齢者が増えている割にはそれほど社会保障関係費は増えていないということがわかります。むしろ、高齢者の増加の勢いと比較すれば「抑制している」とさえいえるでしょう。またこの程度の増加率では、予算を圧迫しているとまでは言えないはずです。この程度の増加であれば、税収の自然増やほかの項目費用を少し削減すれば、十分に賄える額だといえます。「社会保障費の増大のために増税が必要」という消費税増税時の言い訳は、かなり無理があるといえるはずです。
社会保障関連費の次に安倍内閣で歳出が増加した項目で目につくのが防衛費です。防衛費の推移は次のようになっています。
平成23年度 4兆8043億円
平成24年度 4兆8310億円
平成25年度(安倍内閣)4兆8417億円
平成26年度 ↓ 5兆910億円
平成27年度 5兆1497億円
平成28年度 5兆1462億円
平成29年度 5兆2702億円
平成30年度 5兆4603億円
財務省統計表第18表より
まあ、防衛費の増加は北朝鮮情勢や中国の海洋進出などもあったので、この程度の増加はそれほど目くじらを立てるものではないと言えるでしょう。
*自民党の支持基盤に予算をばら撒く
問題はこれからなのです。安倍内閣の歳出増加項目で次に目立つのは、道路整備事業、港湾空港鉄道整備事業、農林水産基盤整備事業費などです。
道路整備事業費(決算)の推移
平成23年度 1兆5195億円
平成24年度 1兆5028億円
平成25年度(安倍内閣)1兆8438億円
平成26年度 ↓ 1兆7197億円
平成27年度 1兆5910億円
平成28年度 1兆6491億円
平成29年度 1兆8225億円
平成30年度 1兆7015億円
財務省統計表第18表より
港湾空港鉄道整備事業
平成23年度 5440億円
平成24年度 5548億円
平成25年度(安倍内閣) 6568億円
平成26年度 ↓ 6824億円
平成27年度 6494億円
平成28年度 7209億円
平成29年度 7380億円
平成30年度 7610億円
財務省統計表第18表より
農林水産基盤整備事業費の推移
平成22年度 7428億円(東日本大震災の対策費含む)
平成23年度 5733億円(東日本大震災の対策費含む)
平成24年度 4793億円
平成25年度(安倍内閣) 8441億円
平成26年度 ↓ 8250億円
平成27年度 7055億円
平成28年度 7455億円
平成29年度 7804億円
平成30年度 7787億円
財務省統計表第18表より
安倍内閣になってから道路整備事業、港湾空港鉄道整備事業、農林水産基盤整備事業費が、合わせて7~8千億円増加しています。
安倍内閣直前の平成22年度と平成23年度の予算は東日本大震災の対策費用もあり、例年よりも多くなっています。
だから安倍内閣以前の標準値としては平成24年度の金額だといえます。
この推移を見ると、安倍内閣は東日本大震災の直後よりも、さらに多くに支出をしているのがわかります。かなり露骨な歳出増額といえるでしょう。
そして見逃してはならない点は、道路、港湾空港、農業というのは、昔から自民党の重要な支持基盤業界です。
安倍内閣発足の年である平成25年には、農林水産、道路、港湾空港鉄道などの整備事業に対して8000億円もの増額をしているのです。
このとき予備費は1兆円以上削られています。見方によっては、安倍内閣は予備費を削って、農林水産、道路、港湾空港鉄道の整備事業費に回したということもいえるのです。
農業の優遇というと、先ほど述べましたように、自民党は新型コロナの経済対策として「お肉券」などを発案しました。
安倍内閣の予算を見ても、農業に関して「異常な優遇」があると言わざるを得ません。
*今、政権を批判することについて
筆者は安倍政権を全面的に否定するものではありません。安倍首相の政策の中には、優れたものもある思います。
・金融業界の反発を抑えて低金利政策を実行し、表面的であれ景気を良くしたたこと(アメリカのトランプ大統領は金融業界の反発をなかなか抑えることができなかった)
・財務省の反発を抑えて消費税の増税を二度延期したこと
・財界に賃上げを働きかけたこと
・アメリカ、中国の対立の中で両国とそれなりに良い関係を築いていること
等々のことは、昨今の首相がなかなかできなかったことであり、安倍首相の功績だと思われます。
が、かといって彼のやることすべてが肯定されるものではありません。
政治の基本は、税をどう取りどう使うかであり、政権が「身内ばかりを優遇する」ような国は、必ず衰退するという世界史のセオリーもあります。
が、今のような税金の使い方をしていれば日本は衰退を免れません。
今後、新型コロナ対策費として、特別な予算が組まれ莫大な税金が使われることになります。
その使い道に対して、我々は厳しく目を光らせておかなければなりません。
日本中から不満や戸惑いの声が噴出している、政府の新型肺炎への対応。
なぜ安倍政権の対策はここまで後手に回ってしまったのでしょうか。
そんな疑問に意外な「原因」を挙げるのは、元国税調査官で作家の大村大次郎さん。
政府には予備費がほとんどなかった
あまり知られていませんが、安倍内閣になってから日本の予算の「予備費」が大幅に削られているのです。
「予備費」というのは、国に何か起こったときのために自由に使えるお金のことです。
下が昨今の日本の予備費の推移です
2009年度 2兆3,425億円
2010年度 3兆2,025億円
2011年度 2兆2,095億円
2012年度 3兆4,253億円
2013年度(安倍政権)1兆6,626億円
2014年度 ↓ 1兆6,236億円
2015年度 1兆6,335億円
2016年度 1兆4,822億円
2017年度 1兆4,677億円
2018年度 1兆3,217億円
2019年度 1兆5,341億円
財務省統計表18表より(経済対策予備費、復興予備など予備費全般を含む)
この推移を見ると安倍内閣になってから予備費が激減していることがわかるはずです。ほぼ半減していますね。
予備費が少ないということは、国に何かあったときにすぐに対応できないということなのです。感染の疑いのある人全員に検査ができないのも、帰国者一人一人に部屋を用意できなかったのも、クルーズ船の乗員乗客全員をすぐに検査できなかったのも、せんじ詰めれば金がなかったからなのです。
春節前に中国人の入国を拒否しなかったのも、中国人観光客が来なくで観光業が大打撃を受けとき、政府はそれを救援するためのお金がなかったからなのです。
政府は2月15日に新型コロナ対策として153億円程度の支出すると発表しました。100兆円の予算規模を持つ国が、国難ともいえる疾病の対策でわずか153億円しか支出しないとはどういうことでしょう?怒りを通り越して唖然としてしまいます。
その一方で、テレワークや時差出勤、公演や催しものの自粛要請など、政府自体は金を使わず、民間に負担をもたらすような施策ばかりを取り続けました。その挙句、学校の2週間休校の要請です。
国民もさすがにこれには怒りの声をあげだしたので、安倍首相は2月29日に慌てて会見をして、2,700億円の予備費の活用を示唆しました。が、安倍首相の会見では「2,700億円の予備費を活用する」とは言いましたが2,700億円を出すとは言っていません。「今、予備費が2,700億円残っているからそれを活用します」と言っているだけなのです。つまり2,700億円の中からいくら出すかはこれから決めるわけです。2,700億円を出してしまえば国の予備費はゼロになってしまうわけなので、全額出すことはできないと思われます。
また安倍首相は「学校の休校により仕事を休むことを余儀なくされた親には助成金をつくって対応する」と述べましたが、これも具体的にはどうなるかわかっていません。おそらく支給基準のハードルを非常に高く設定することでしょう。新型コロナの検査対象の基準を高く設定して検査数を増やさなかったように。
*なぜ安倍内閣はこれほど予備費が少ないのか?
そして本当に驚くべきは、日本の予備費の残額が2,700億円しかないということです。
2,700億円しか予備のお金がなかったら、もしこれから何か起こったらまったく何も対応できないはずです。
たとえば、もし北朝鮮関係で紛争などが勃発したら、日本政府はどうするつもりなんでしょう?
それにしても、なぜ安倍内閣の予備費はこんなに少ないのでしょうか。
少子高齢化対策で予算が回らなかった?いいえ、違います。安倍内閣は少子高齢化対策にそれほどお金は使っていません。
教育関係費などは大幅に減額したりもしているのです。
ではなぜ予算がなくなったかというと、自民党の支持者回りに巨額の予算をばら撒いたからです。
このメルマガで以前に、第二次安倍内閣が成立した直後から安倍首相の地元の山口県の公共事業費が激増しているということをご紹介しました。
が、こういうことは山口県のことだけじゃなく、予算全体において行われているのです。
だから、国の一大事に使うべきお金がなくなってしまったのです。
※ メール・BLOG の転送厳禁です!! よろしくお願いします。
コメントをお書きください