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パナソニックのモビリティ変革とその第一歩 @ IoT Forum 大阪2020

2020年02月18日
[三島一孝,MONOist]


本社エリアでの「自動運転ライドシェアサービス」のイメージ

パナソニック モビリティソリューションズ担当 参与 村瀬恭通氏による基調講演「クルマ中心から人中心のまちへ変革するモビリティへの挑戦」の内容を紹介。

 


*「Can」ではなく「Will」でビジネスモデルを変革する

 パナソニックは2018年度に創業100周年を迎え、従来の家電を中心とした「モノ売り」のビジネスモデルから「くらしアップデート」企業として変革を進めている。
パナソニックの事業の変化について村瀬氏は「パナソニックは家電を祖業とし、家事労働からの解放を訴えて発展してきた。

ただ、この100年の歴史を振り返っても、ハードウェアオリエンテッドの会社だった。ハードウェアをアップグレードさせていくことで売上高を伸ばすビジネスモデルだった。

しかし、ハードウェアを売ることを中心に考えると毎年大きな進化がなくてもアップグレードが必要になり、結果として無駄な機能ばかり増えることになる。

個人のニーズも多様化する中でグレードでは語れない世界が広がっており、これらに対応する意味でもアップグレードではなく、IoT(モノのインターネット)などを活用しアップデートをする発想になった」と語っている。
 村瀬氏が担当する「モビリティソリューションズ」はこうした変革を象徴する取り組みの1つとして2019年に活動を開始した組織の1つである。

従来のパナソニックの事業領域は基本的には「家の中」を対象としてきたが「くらし」を対象とするとその概念を広げる必要がある。「人の生活圏」としてのくらしを考えた場合「人の移動」も含めて最適な姿は何かを模索するのが「モビリティソリューション」の役割である。
 「モビリティは大きな変革の時代にある。鉄道から自動車によるモータリゼーションの時代へと変化をし、今さらにCASE(コネクテッド、自動運転、シェアード、電動化)の時代へと入ろうとしている。

変化からはチャンスが生まれる。

そこでパナソニックとしてこのモビリティの変革に向き合うため、社長直轄組織としてモビリティソリューションズが生まれた。

パナソニックでは社内カンパニー制を採用しているが、既存のカンパニーではどうしてもプロダクト中心の考え方になる。

モビリティソリューションズは既存の枠組みから外し、ビジネスモデルを変革する出島』として活動を進めている」と村瀬氏はモビリティソリューションズの位置付けについて語っている。さらに取り組みの方向性として村瀬氏は「Can(できる)」ではなく「Will(そうありたい)」を重視するという。

「技術オリエンテッドで考えるとどうしても『これができる』ということから積み上げて、製品やサービスを開発してしまいがちだが、それでは本質的な課題解決はできない。

そうではなく『世の中をこう変えたい』という意思を起点とすることが重要だ。『Will』に寄せた取り組みが必要だと考えている」と村瀬氏は強調する。

その例として、パナソニックが東京都内で展開する「100BANCH」を紹介する。

「100BANCH」は、これからの時代を担う若い世代と共に次の100年につながる新しい価値の創造に取り組むための「Will」を聞く拠点として設立し、さまざまなプロジェクトを進めている(※)。
(※)関連記事:100年先の世界を豊かにする実験スペース「100BANCH」が1周年、昆虫食もあるよ!
 村瀬氏は「若い世代の人に話を聞くと世の中をより良いものに変えたいということに強い意志を持ち、モチベーションとしている人が多いことに気付く。
そういう人たちとの交流により新たな価値に気付くことができる」と意義を語る。

 

*ラスト10マイルのモビリティをどう変えるのか

 モビリティソリューションズの具体的な取り組みとして、まずはこの「Will」起点でビジョンの作成を行った。

モビリティの進化によって人々は移動の自由を得た一方で、交通弱者を生み出したり、交通事故や排ガス問題を生み出したりしてきた。

またモータリゼーションの進化により町の中心が「乗り物」を中心に作られるようになり、人のスペースが追いやられることになった。

パナソニックでは「こうした乗り物中心の世界ではなく歩行者が中心の世界を描きたいと考えた。『クルマ中心から人中心の町へ』と人の生活圏で考えていく」(村瀬氏)。

 そこで打ち出したビジョンが「Last 10-mile」である。

人の生活圏として10マイル(約16km)圏を想定し、その中で最適なモビリティシステムを構築することで、人やコミュニティーの活性化を目指すというものだ。

その具体策として、道路に新たに「緑道」を加えることを訴える。

緑道」は一般的には「都市部を中心に設けられる、歩行路自転車路を主体とした緑地帯」だとされているが、パナソニックが考える「緑道」は歩道と車道の中間で、低速モビリティでの移動を中心とする道路として位置付けている。

緑道」での移動を低速モビリティに担わせることで「Last 10-mile」での人の交流やコミュニティーの活性化を目指すというものである。
 「現在は移動といえばクルマが中心となっているが、歩行とクルマ移動の中間となる存在が生まれることで、そのエリアでの人の移動が活発化する。

車や鉄道での移動から『緑道』で低速モビリティに乗り換えるマルチモーダルハブを実現したい。モビリティでも用途に合わせた水平分業を行うイメージだ」と村瀬氏は語る。
 ただ、パナソニックそのものが不動産デベロッパーになるわけではなく、これらの町の中での「ペイン(不便な点、悩みの種)」を見つけて解決することを目指す。

「実際にモビリティソリューションズのメンバーではニュータウンでそれぞれに老夫婦やファミリー層、大学生などそれぞれの役割で町を歩き、ペインを探すような取り組みを行ったが、それぞれの立場で考えてみると、さまざまなペインがあることに気付いた。モビリティの在り方としても考えるべきことは多い」と村瀬氏は語る。
 これらの取り組みを含め「『Will』で考えて、仮説検証を進めることでこれらを解決していく。
『Can』で考えると、こうした発想は生まれてこない。パナソニックとして100年のしがらみから解き放ち、ペインを次々に解消する取り組みを進める」と村瀬氏は従来とのアプローチの違いを説明する。

 

*モビリティソリューションズによる「ペイン」解決の取り組み

 実際に取り組みの1つとして紹介したのが、パナソニックが本社エリアで展開している「自動運転ライドシェアサービス」である。

「これは社員のペインを解決したものだ。本社エリアには、1万人以上の社員が勤務しており、さらに広い敷地をまたぐ移動が必要になる。

これらを解決するために低速の自動運転カートを運行した。定期運行を行うものと、アプリでの呼び出しで個別運行するものを用意している。

これは実験ではなく、総務が主体となり本番運用をしているという点がポイントだ」と村瀬氏は述べる。
 国内では自動運転サービスの本番運用を行っているところは少なく、これらのノウハウを得られる点も利点だとする。

「自動運転技術を研究開発しているところは既に全世界に数多くの企業が存在し、シリコンバレー企業などに勝てるかというと難しい。しかし、サービス運用はローカルでのすり合わせが必要になる。そこにパナソニックの強みがあると考えている。パナソニック本社エリアの敷地内には交差点やトンネルやラウンドアバウト(環状交差点)などもあり、自動運転に関するさまざまなノウハウを得られる。また、遠隔操作による対応など、非常時対応のノウハウも得られる。アナログ領域の解決策が必要で、そこに勝つ道がある」と村瀬氏は語っている。
 一方で、中国における充電マネジメントサービスへの取り組みなども紹介する。

EV(電気自動車)が普及する中で車載用バッテリーの性能に注目が集まっているが、バッテリー特性的に充放電を繰り返すと劣化する。

そのため、EVも搭載バッテリーの使用状況によって、同じバッテリー残量だったとしても、あるクルマでは100km走るが、別のクルマでは50kmしか走らないというようなことが起こり得る。そこで重要になるのが個々のクルマにおけるバッテリー状態の管理である。
 村瀬氏は「EVのバッテリー問題では実際に中国でも困っている人がたくさんいた。パナソニックでは充放電の様子からバッテリー状態を推測し残量を予測するバッテリー管理技術を持っており、これを使えば何とかなるのではないかと考えた。これもさまざまなパートナーと組みながら徐々に形になりつつある」と説明する。

 

*日本企業がデジタル変革で勝ち残る道

 これらの取り組みを続ける中で村瀬氏が強調するのが「いかにローカルでペインを押さえるか」という点である。

「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon.com)などのIT大手などに対し、グローバルでのITの枠組みで勝負するのは難しい。しかし、ローカルやフィジカルの領域ではパナソニックを含む日本の製造業に強みがある。この間の領域でいかに解決すべきペインを見つけるかが最大のポイントだ」(村瀬氏)。
 IoTやAIなどを活用することを考えた場合、データをどれだけ集めて持っているかが重要だとも指摘されるが「データはなくても解決したいペインや、解決した先にあるべき『Will』が明確になっていれば問題ない。これらに共感してくれた顧客やパートナーがデータを提供してくれるようになる。それがモビリティソリューションズで1年間取り組んできた中での実感だ」と村瀬氏は逆の考えを示す。
 さらに、「AIやIoTなどのツールについても今はさまざまなベンダーがサポートしてくれるので心配しなくてもよい。すり合わせやローカルでアナログなものなど、まずは得意な領域で違いを生み出すことが何よりも重要だ」と村瀬氏はあらためてポイントを強調した。


経営者や人事部が「50代を何とか鼓舞したい」と言う

 最近、企業からの相談で増えているのが、そのシニアのことである。人生100年時代と言われ、働く期間が長くなることも見込まれている昨今、経営者や人事部から「50代を何とか鼓舞したい」と言われることが本当に多くなってきた。

「昔は、60歳が定年で、会社に余裕もあったから、50歳超えたころから失速していくシニアがいても、“長年勤めてきたのだし、高齢なのだから後は定年まで無難にお願いします”という空気もあったものですが、今は65歳、今後は70歳まで働くことが考えられ、そんな悠長なことを言っていられないんですね。50歳だったら70歳まで20年もあるわけで、これまでの貯金(知識やスキルの貯金という意味)で乗り切れると思えないじゃないですか。それを60代になってから気づいても遅いから、できるだけ早く、50歳になったら、もうひと花もふた花も咲かせよう!とブーストしてくれるようにしたいんです。新しいことに挑戦するとか若手の手本になるように行動するという方向に動機づけたいのだけれど、どうしたらよいでしょう?」――こんな話を聴くことが多いのだ。

 そうやって「なんとかしたい」と思われるシニアだって、若い頃には相当頑張ったと思う。特に、今の50代はバブル前後の世代なので、本当に長時間働いただろうし、パワハラなどという概念もなかったので、今だったら完全アウトになる上司の無理難題にも対応してきただろう。 資格が必要とされる職種であれば、勉強し、資格も取得してきただろうし(今、その知識や技術が陳腐化していたとしても、その当時は最新の知識や技術を学んだのだ)、さんざん切った張ったも乗り越えてきた。30年もそんな風に懸命に働いてきたのだから、もうそろそろ楽したいなぁと思うのも無理はない(若い頃、当時の50代の先輩たちを見ながら、私も50代になったらのんびりしたいし、のんびりできるのだろうと思っていた)。

 しかし、時代は変わった。変化の激しさは増すばかり。価値観も大き変わった。あっという間に考え方も知識も技術も古くなってしまう。だから、50代は、「20~30代のときは頑張った!」という思い出を大切に生きているだけでは通用しない(ある人が、「シニアのノスタルジーには困る」と言っていたのを聴いたことがある)。後輩たちは、私たち50代が「20代、30代と相当頑張って働いてきたこと」など知らない。単に今の姿だけを見て評価する。

 どんなに昔挑戦していても、どんなに努力していたとしても、それは過去のことだ。後輩が見ているのは、「今、頑張っているか」「今、努力しているか」なのだと最近ようやくわかってきた。50代は、「たぶん嫌がるだろう」「やらないかもしれないな」などと思われている。考えてみれば、結構ハードルは低いとも言える。

 だから、シニアがほんの小さなことであっても、新しいことに挑戦したり、嫌がらずに取り組んでいたりするだけで、後輩たちはそれを見ていて、「お!」と思うのではないか。 ちょっとの努力で、がらっと評判は変わる可能性がある。 

50代の方たちと話していると、「今さら新しいことを学ぶなんて」とか「50代になっても成長なんて…」と言われることもよくあるのだが、現役時代はまだまだ続くし、その途中で世の中も会社もどんなことが起こるかわからないのだから、何か新しいことにちょっとでも取り組んでおいたほうがいい。きっと後輩の見る目も変わる。それに、誰だって、何歳になっても「できなかったことができるようになる」ことは案外楽しいものだと思う。

出典:日経BizGate/愛されシニアを目指すスキルアップ道場



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