2桁成長、「アジア医療市場」へ日本企業が熱視線
三井物産やテルモなど出資や提携が相次ぐ
劉 彦甫 : 東洋経済 記者
2020年01月27日
世界屈指の金融街、香港のセントラル(中環)から車で約20分。
香港島南部に位置する「黄竹杭」と呼ばれるエリアの一部に、総合病院が林立する場所がある。
外壁が薄汚れた古い病院が多い中、白色の外壁を基調とした高級ホテルを思わせる外観の病院がグレンイーグルス香港病院(港怡医院)だ。
2階まで吹き抜けのメインエントランスは開放感があり、7階建てのうち4階の一部には屋上庭園が設置されている。
*アジア最大の病院グループへ出資
グレンイーグルスの強みは、最先端医療機器の導入をはじめとする先進的な病院設備にある。
グレンイーグルス香港病院の病室。まるでホテルのようだ(写真:三井物産)
IHHはアジア各地で香港のグレンイーグルス病院のような先進的な医療施設を展開し、各地の中高所得層の支持を獲得して規模を拡大している。同社の筆頭株主である三井物産は2011年に924億円を出資した後、2018年11月には約2300億円の追加出資を行い、現在32.9%を保有する筆頭株主だ。
三井物産がIHHに出資する狙いは、経済発展や高齢化を背景に高度医療の需要が高まっている中国市場での事業拡大だ。三井物産(香港)の鷲北健一郎会長は「中国に近いグレンイーグルスでの経験やIHHがアジアで培ったノウハウを活用して中国市場の展開を図る」と話す。
グレンイーグルスの患者のうち、約3割が中国本土を中心とした香港外からの医療ツーリズム目的の患者であり、「中国本土ではまだ受けられない検査や投薬治療を求めている証しで、中国市場のポテンシャルを感じる」と鷲北氏は話す。IHHは2019年に四川省・成都に中国本土初となる拠点病院を開設。2020年には上海に病院を開設する予定だ。
三井物産は病院だけでなく、中国でのヘルスケア分野の成長も企図。
2019年6月には中国の国有複合企業である華潤集団などとヘルスケア産業を対象とした1000億円規模のファンドを設立した。
三井物産のように、アジアのヘルスケア市場に日本企業が目を向けるのは、その成長性の高さにある。
調査会社フロスト&サリバンによると、アジア・太平洋地域のヘルスケア市場規模は2018年時点で5000億米ドルを超える。伸び率も、世界平均が4%台なのに対し、アジア・太平洋地域は12%台だ。
その結果、医療機器メーカーのアジア向け売上高は拡大している。
例えば、消化器内視鏡で世界シェア7割のオリンパス。
2020年3月期上半期の中国での医療事業売上高は前期比27%増と成長が加速している。
同社の竹内康雄社長は「中国で2桁の伸び率が継続するのは確実だ」と期待を寄せる。
血液検査機器大手のシスメックスも「(アジアの)現地通貨ベースでの売り上げは伸びる見込み。中国内陸部の市場拡大余地はまだまだある」(同社関係者)と、中国やインド、東南アジアの追い風を感じている。
アジア市場は、「グローバルメジャー」と呼ばれる欧米の大手医療メーカーのプレゼンスが欧米と比べて低く、日本企業も競合しやすい。
カテーテルなど循環器系治療器具を手がけるテルモは、2012年に中国最大手の威高(ウェイガオ)グループと合弁企業を設立。2018年末に現地の医療機器企業を約140億円で買収した。2019年4~9月期の中国の売上高は、前年比24%増となった。
シスメックスは1995年に中国企業との合弁による現地法人を設立。
オリンパスが開設したタイのトレーニングセンター風景(写真:オリンパス)
医療需要の拡大でアジア新興国の各現地でも地場メーカーが次々と生まれているが、技術面では欧米や日本勢がリードしている。
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