2018年11月26日 公開
[三島一孝,MONOist]
東芝は技術戦略説明会を開催。東芝が目指す独自のIoTアーキテクチャ「Toshiba IoT Reference Architecture」を発表し、同フレームワークを生かして4つのIoTサービスを展開する方針を示した。
東芝は2018年11月22日、技術戦略説明会を開催。東芝が目指す独自のIoTアーキテクチャ「Toshiba IoT Reference Architecture」を発表し、同フレームワークを生かして4つのIoTサービスを展開する方針を示した。本稿では、以前から持つ社会インフラでの強みをベースとし、数々の要素技術を組み合わせ、どうデジタル変革に向かうのかを紹介した東芝 デジタイゼーションCTOの山本宏氏の説明内容を紹介する。
CPSとIoT、デジタルツインなどの関係 (出典:東芝)
*サイバーフィジカルシステムの意味
経営危機から脱し、新たな姿での成長を目指す東芝グループでは、製造業で培った強みと、産業分野でのデジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)での強みを組み合わせた「サイバーフィジカルシステム(CPS)」を新たな価値として推進する方針を示す。
山本氏はサイバーフィジカルシステムの定義として、ドイツのacatech(ドイツ学術アカデミー)や、NIST(米国国立標準技術研究所)などの参照アーキテクチャなどをベースとして3つのポイントを示す。具体的には以下の3点である。
- CPSのデータソースは人、モノ、サービス(システム)の3つ
- CPSはサイバーとフィジカルの閉ループから構成される
- CPSは「システム」「システムオブシステムズ」「人」が要素として存在する。
山本氏は「CPSのループを実現する仕組みの中で、血液に相当するのがデータである。そのデータには3つのデータソースが存在する。デジタルツインはCPSの1つのユースケースであり、ユースケースには自動運転なども存在する」とCPSについての考えを述べる。
CPSそのものは新しい考えではないが山本氏は「昔からやっているという人もいるが、昔のCPSは目的が制御で狭い世界のものだ。今のCPSが異なるのはスコープがはるかに広く社会を巻き込むものへの変わっているということだ。従来のCPSが制御を目指したのに対し、新たなCPSではサービスを志向している点が違いだ。この2つを両立させることが重要だ。東芝はこの両方に対してアプローチできる点が強みだ」と現在の違いについて語る。
パブリックループとエンタープライズループ (出典:東芝)
*エンタープライズループとパブリックループ
東芝では、これら2つのCPSに基づき、先述したようなデータが巡るループとして2つのサービスループが存在すると定義。1つは企業内の情報活用の最適化を実現するエンタープライズループであり、もう1つが他社や他業界などを巻き込み、全体最適化をサービスで実現するパブリックループである。
「エンタープライズループの典型的な取り組みがドイツのインダストリー4.0である。具体的なサービスとしてはリモート監視、アセットマネジメント、予防保全などが存在する。パブリックループは出荷された製品とのデータのやりとりで実現する制御とサービスである」と山本氏は語る。
これらを一元的に展開できる基盤として用意したのが、東芝独自のIoT参照アーキテクチャである「Toshiba IoT Reference Architecture(TIRA)」となる。
*東芝独自のIoT参照アーキテクチャが持つ意味
「TIRA」の構築に向けて山本氏は「2018年7月に東芝に入ってからずっとアーキテクチャ構築に取り組んできた。
将来的に世界に発信することを考えた場合、世界標準に準拠しないといけないと考え、IIC(インダストリアルインターネットコンソーシアム)およびNISTのIIRA(インダストリアルインターネットレファレンスアーキテクチャ)をベースに、独自の技術的な要素などを考慮しながら構築した※)」と述べている。
※)関連記事:第4次産業革命で各団体が立てる「参照モデル」とは何?
「TIRA」の概要 (出典:東芝)
具体的な「TIRA」の概要は以下の通りである。
ポイントは、最上部左端のエッジ領域から右端まで大外を回るループが「サービスループ」、プラットフォームレベルまでで現場にフィードバックするループが「制御ループ」であるという点だ。
この「制御」と「サービス」を織り込んだアーキテクチャとしていることがTIRAのポイントとなっている。
山本氏は参照アーキテクチャの意義として「フレームワークを作る最大の理由は要素技術の再利用など、無駄をなくすということだ。社内外で使う技術の住み分けや重複を避けることができる。また品質の安定にもつながり、パートナーと組む際の青写真にもなる」と述べている。
東芝では現在このTIRAに合わせて技術の棚卸しを進めているとし、オープンソースや社外技術の活用なども含めて「早くサービスとして提供できるように最短ルートを進めるようにする」(山本氏)としている。
TIRAをベースとしてIoTソリューションを当てはめた例 (出典:東芝)
技術の棚卸しの概要 (出典:東芝)
*東芝が持つ強みとは
このCPSの中で東芝が持つ強みについて山本氏は1つとしてエンジニアリング領域での強みを示す。
「数多くのサイバーベンダーがIoTに取り組んでいるが、CPSにおいてモノからデータを取るだけであればそれほど難しくない。しかし、サイバーからフィジカルの環境にアクションを戻すというのが非常に難しい。もともとマシンやシステムがどういう設計思想であり、どういう保守履歴があるのかなどのマスターデータがなければどうしようもないからだ。ここを持つ点がサイバーベンダーとは異なる東芝の最大の強みである」と山本氏は述べる。
さらに、もう1つの強みが、サービスを展開する中で重要になる事業領域である。
「日本政府が発表した『Connected Industries』の中で『ものづくり・ロボティクス』『自動走行・モビリティサービス』『バイオ・素材』『スマートライフ』『プラント・インフラ保安』という5つの重点領域が発表されている。
東芝はもともとこれらの領域での事業展開を行っており、すでに多くの知見がある。まずはこれらの領域でO&M(オペレーションメンテナンス)サービスを展開することになるだろう」と山本氏は語る。
TIRAをベースとしてIoTソリューションを当てはめた例 (出典:東芝)
TIRAをベースとしてIoTソリューションを当てはめた例 (出典:東芝)
*4つのサービススイートを展開、国際標準化も
今後に向けては、まずIoTビジネスを構築する中で、4種類の「IoTスイート」を用意する方針である。
具体的には「インフラ」「製造」「エネルギー」「物流」の4分野向けをパッケージ化したものを用意する。
さらに、これらで得られた知見やTIRAなどでの実績をIICなどを通じて発信し、世界標準としての採用を目指すという。
山本氏は「このIoT領域における世界の技術開発の中での日本の位置付けは低い。技術の進展に貢献する意味でも、国際標準に反映するための活動を進めていく」と考えを述べている。
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