ソニーから譲り受けた村田のリチウムイオン電池
「燃えない」を武器に黒字化急ぐ
2019年09月03日 06時00分 更新
[齊藤由希,MONOist]
村田製作所は2019年8月28日、リチウムイオン電池の組み立て工程を担う東北村田製作所の郡山事業所を報道向けに公開。
くぎ刺し試験の様子。
材料の特徴により発火しない。高い安全性を持つ
東北村田製作所の前身はソニーエナジー・デバイスだ。
村田製作所は2017年にソニーから電池事業を譲り受けた。
村田製作所の電源技術と旧ソニーエナジー・デバイスのバッテリー技術のシナジーも生まれ、DC-DCコンバーターやバッテリーマネジメントシステムを一体化した家庭向け定置用蓄電システムを2018年2月に発表。
住宅用だけでなく、工場の瞬時電圧低下対策や学校、消防署などの非常用電源、オフグリッド向けまで、幅広い用途に向けて提供する。
村田製作所はソニーから譲り受けたリチウムイオン電池をビジネスとしてどう育てるのか。目標となるのは、2021年度中に電池事業を黒字化することだ。村田製作所
モジュール事業本部 エナジーシステム統括部 統括部長の高野康浩氏は「電池は産業のコメ。村田製作所のポートフォリオの中核を担えるように育てていく」と語る。
くぎを刺しても燃えない
リチウムイオン電池の電極材料には幾つか種類があり、材料によって性質や用途が異なる。
リチウムイオン電池の種類 出典:村田製作所
例えばコバルト系は高動作電圧が特徴でスマートフォンやPCに使われ、ニッケル系(NCA)は高エネルギー密度で車載用に使われる。
村田製作所でもさまざまな材料のリチウムイオン電池を手掛けるが、蓄電システム向けで注力しているのが正極材にオリビン型リン酸鉄を使った円筒形リチウムイオン電池「FORTELION(フォルテリオン)」だ。
オリビン型リン酸鉄系は動作電圧が低く、エネルギー密度も低い。他の材料のリチウムイオン電池と比べて重くなるという欠点もある。
しかし、熱安定性が高いことによる安全性、15年以上の長期間の保存特性、1万4000サイクルで70%のサイクル特性、レアメタルフリーといったメリットがある。1時間で90%以上の急速充電も可能だ。
長期間使用し、1日に何度か充放電する蓄電システムに向く性質を持っている。
フォルテリオンの安全性については、ソニー時代の2016年に消防 認定を取得した。蓄電システムが災害時に発火もしくは爆発を起こすと 二次災害につながり大変危険である。
フォルテリオンは、地震や火事、洪水などの環境に蓄電システムが置かれたことを想定した試験で発火や爆発を防げることを確認。
消防用設備などの非常電源として消防法上の技術水準に適合していることが認められた。
「リチウムイオン電池としては初」(ソニー)だという。UL1973などの安全認証も取得した。
安全性試験では、満充電状態で強制的に内部短絡を起こす他、同じく満充電でのバーナーでの加熱や浸水、圧壊などを行う。報道向けに実演したくぎ刺し試験では、他の素材のリチウムイオン電池セルは急激に温度が300℃以上まで上昇してすぐに発火するのに対し、フォルテリオンは過充電時でもリンが酸素を保持して構造が安定するため発火せず、約120℃をピークに短時間で温度が下降した。
黒字化の遅れは「増産投資」のため、海外拠点と分担して開発加速
村田製作所では、円筒形のフォルテリオンの他にもラミネート型のリチウムイオン電池やボタン電池を扱う。リチウムイオン電池は、ソニー時代のビデオカメラから始まり、携帯電話機やPC、スマートフォンで採用されてきた。モバイル用途で大きな伸びが見込めなくなって以降、電動工具やコードレス掃除機、電動アシスト付き自転車などに用途を広げている。フォルテリオンを使った蓄電システムも新しい用途の1つで、家庭用では国内で早期に年間販売台数1万台を目指すという。
リチウムイオン電池 (円筒形)
リチウムイオン電池 (ポリマー電池)
村田製作所のリチウムイオン電池のラインアップ
ボタン電池には酸化銀電池とリチウム電池があり、腕時計やTPMS(タイヤ空気圧モニタリングシステム)で採用実績を持つ。2005年には酸化銀電池の無水銀化を実現し、医療用でのシェアも伸ばしているという。
今後は時計やTPMSの他、IoT(モノのインターネット)機器用の二次電池やワイヤレスのイヤフォン、ヘッドフォンで伸びている需要に対応していく。
IoT機器やワイヤレスオーディオでは超小型のボタン電池が求められているため、製造技術の強みが生きるという。
電池事業は、ソニーから譲り受けた時点で収益性が良好とはいえなかった。
村田製作所に移管された後も2019年に黒字化する目標を先送りした。現在は2021年度に利益に貢献することを目標とする。損益改善が遅れている主な理由は、需要拡大に対応するための増産投資の積み増しだという。
今後の収益性改善においてもモバイル向けは市場が飽和状態で厳しい。
高野氏は「競合他社と比べてちょっといいモノを作ることはできても、他社よりすごくいいモノを作るのは難しい。技術的に工夫の余地が少ない」と説明。円筒形やコイン電池はモバイル向けほど損益が厳しくなく、特に円筒形の用途では新しい市場が立ち上がっているという。
シンガポールの拠点は設備投資を実施して拡張し大規模な量産を担当し、郡山事業所で試作や初期量産を担う形で分担し、開発スピードを上げる。
電動車の駆動用バッテリーはやらない
円筒形リチウムイオン電池の用途に四輪車の駆動用バッテリーは含まれていない。「中国勢の積極的な投資を見て、追従すべきではないと判断した。コモディティ化が進み、投資競争になるので採算が難しい。駆動用バッテリーは積極的に取り組む姿勢ではない」(村田製作所 モジュール事業本部 本部長
代表取締役専務執行役員の中島規巨氏)というのが背景だ。
ただ、補機バッテリーは前向きに取り組んでいく方針だ。オリビン型リチウムイオン電池は、緊急通報システム向けで採用実績がある。「普段は使わないが、いざというときに使えるという信頼性が評価され、そこから補機バッテリーの話をいただいている。今後、電源の冗長化や始動用などで補機バッテリーは1台に3~4個使われていくだろう」(村田製作所
エナジーデバイス事業部 事業部長の阿河圭吾氏)。二輪車に関しては、ホンダ「PCX HYBRID」で採用されたようなモーターアシスト用の電源だけでなく、EVバイクの駆動用バッテリーも含めて可能性を広く検討するという。
セルの品質にばらつきのないことが強み
フォルテリオンが蓄電システムになるまで、村田製作所の複数の生産拠点がかかわっている。電極を作るための材料の混合、塗布、プレスといった工程は郡山事業所からクルマで15分ほど離れた東北村田製作所の本宮工場が担う。郡山事業所では、スリット、巻取り、組み立て、充放電、梱包といった工程を行う。
家庭用蓄電システムの製造プロセス 出典:村田製作所
電極とセパレーターを巻取った工程の後は、ドライルームで円筒形に組み立てられる。その後、セルは付着した電解液などをブラシと水で洗浄し、外部ショートを防止するためポリプロピレンのチューブがかぶせられる。
チューブの状態は画像認識で全数検査する他、正極と負極の位置が正しいかどうかもX線で検査する。基準に満たないものはNG品として自動的に取り除かれ、検査をクリアしたものはロボットによってトレイに収められる。
トレイに収められたセルは、1~2週間かけて充放電しながら品質を確かめる。充電中や充電後の自己放電などの中で電圧を5~7回測定し、基準外のセルをより分ける。取引先からは、セルの性能のばらつきが少ない点が高く評価されているという。
充放電工程では、作業員がバーコードで生産日と時刻を記録した後、セルの収められたトレイはトラバーサーとクレーンによって自動で充放電設備まで運ばれていく。充放電装置のラックはトレイが1つずつ収まるようになっており、セル1つ1つに対応したピンで充放電と電圧測定を同時に行う。
充電中のセル1つに電圧の異常があると、そのセルだけ充電を止めるなどの制御も自動化されている。電圧が低いセルは充放電工程が終わった後に自動でトレイから取り除かれる。充放電工程を終えたセルは、目視による外観検査を経て、箱詰めされて輸送される。
チューブの取り付け状態の外観検査やX線検査をクリアしたセルが流れてくる様子(左)
充放電工程は最小限の人手で作業が進む(中央)
1~2週間かけて充放電させてより分け、品質のばらつきをなくす(右)
梱包されたセルは金津村田製作所(福井県あわら市)に送られ、家庭用蓄電システムとして組み立てられる。家庭用蓄電システムはパワーコンディショナーまで社内で手掛ける。オフグリッド向けや工場向けなど大型の蓄電システムは、システムインテグレーターや電源メーカーがパワーコンディショナーとともに完成品を組み立てるため、村田製作所は取引先に近い場所でバッテリーマネジメントユニットなどと併せて蓄電モジュールを部品として納入する。
村田製作所は、大型蓄電システムについて日本の他、欧州、オーストラリア、カナダ、プエルトリコなどで納入実績がある。
現在、メンテナンス性の高さや省スペース化を理由に鉛蓄電池からリチウムイオン電池への置き換えが進んでいるという。
瞬時電圧低下対策でms単位での即応性が求められる点や、瞬時電圧低下対策以外の用途も含めたマルチユースではキャパシターやNAS電池よりもリチウムイオン電池が適しており、今後の需要拡大を見込む。
蓄電モジュール。住宅用(左)
大型用(右)
本宮工場に設置している大型蓄電システム(左)
内部の様子(中央)
内部を再現したモックアップ(右)
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