※ 記事抜粋
近藤悦康 :株式会社Legaseed代表取締役・人材採用コンサルタント
2019年6月7日
採用担当者がこの時期一番恐れる「内定辞退」
今年の新卒採用は、経団連の就職協定の影響もあり、6月から大手企業が一斉に内定出しを行っています。しかも学生側も、情報化社会の中で、「内定承諾書」を提出しても法的効力がないことは分かっています。ですから、既に内定を早めに出し、内定承諾書を学生からもらっている企業も、安心できないのが実情です。
リクルートキャリアの調査では、2019年卒の就活生は、1人当たり平均2.46社から内定が出ており、3月卒業時の内定辞退率は67.8%。すなわち10人に内定を出しても3人程度しか入社してもらえないのです。
採用したい人材からフラれてしまうのが、採用担当者が一番がっかりする瞬間なのです。
内定辞退率が増加している理由は、就活生の数は横ばいの中、新卒採用を実施する企業が増えているからです。実際に、大手就職サイトのリクナビの掲載企業社数は、2013年卒6242社、2020年卒では3万1943社(2019年6月6日時点)と約5倍に増加しているのです。
特に、従業員が300人未満の中小・ベンチャー企業の求人倍率は8.62倍。「中小だと、新卒採用は難しい…」、最近、経営者とお話するとそんな悲鳴がよく聞こえてきます。しかし、そんな売り手市場においても、「内定辞退ゼロ」の企業も中にはあるのです。私が知っている会社でも、下記のような事例があります。
・大阪の社員26人の製造業で内定3人出して辞退0
・福島の社員62人の製造業で内定6人出して辞退0
・東京の社員18人のコンサル業で内定9人出して辞退0
・東京の社員200人の清掃用具リース業で内定25人出して辞退0
「リアルな仕事」を体験させこの「仲間」と「環境」で仕事したいと思わせる
売り手市場となると、大手企業から内定が取りやすいと考え、本人だけでなく学校の先生や両親といった周囲からも大手企業への就職を勧められます。 ほとんどの学生が就活を始めた当初は、中小・ベンチャーを「本命企業」にすることは、なかなかありません。
いわば「滑り止め企業」なのです。
では、どうすれば中小・ベンチャー企業が「本命企業」になるのか。
そのためには、まずは企業側が「選ぶ採用」から「選ばれる採用」に変えていくことからです。
恋愛で例えるなら、相手に告白をしても、相手が選んでくれなければ結ばれないのです。
最近は、学生に選ばれるために、「うちの会社は残業が少なくて、休日が多い会社です」とアピールしている会社が目につきますが、果たして有効なのでしょうか。あなたがもし会社の経営者だったときに、学生から「残業が少なくて休日が多いから御社を選びました」と果たして言われたいでしょうか?
中小・ベンチャーが採用活動において、ブランドや知名度、規模で勝負することは難しい面があります。
ですから、「一体、何で選ばれたいのか?」。
この問いの本質を見出す必要があるのです。人が企業を選ぶ際に最終的には、「箱」よりも「中身」が重視されます。
選考プロセスを通してリアルな「中身」に触れてもらい、「この仕事をこの仲間と、この環境でやりたい」と本人が決断できるように情報と環境を提供することが大切なのです。
残業や休日、給与など見た目の数字だけよく見せて、実際の職場を見せない会社は、逆に危ないと私は思います。
ちなみに当社の採用の場合、今年私が社長面接をした学生は、既に大手企業から内定が出ていて、私たちの会社と迷っていました。
私たちは選考プロセスの中で約50時間、当社の仕事や社員に触れてもらっているため、働くイメージも社員も職場環境もよく理解されています。
しかしもう1社は、説明会と筆記、面接のみで接触時間は5時間程度、採用チームのスタッフとしか話ができていませんでした。
「その会社で1日職場見学とか同行営業させてもらって、社員や働く環境を見て比較した方がいいのでは?」とアドバイスをし、その学生は採用担当に打診をしました。
しかし、断られたのです。そのことがきっかけで、その学生は内定をもらっていた大手企業を辞退し、当社に入社することになったのです。
リアルな自分たちを見せられない会社は、これからの時代は選ばれないのではないでしょうか。
今は「ありのまま」を見せることが、一番魅せられる時代なのではと考えています。
ナビやスライドの文字情報よりも、自分の目で確かめたリアルな情報の方が決め手になるのです。
企業の選考は、「見極める」ためだけのものではなく、「魅力づけ」をしていくプロセスであることを忘れてはなりません。
内定者ゼロだった福島の製造業の会社が内定辞退ゼロへ
福島にある社員62人の、ある製造業の事例をご紹介します。
ナビに掲載しても、合同説明会に出展しても学生が集まらず、唯一の内定者も入社直前に内定を辞退されてしまうという状況でした。
そこで、「選ぶ採用」から「選ばれる採用」へ変えたことで、2019年卒の新卒採用活動では6名内定を出し、内定辞退ゼロで全員が入社することを実践できました。
その会社説明会では今後、これまでの一方的なスライド形式の会社説明から、創業からの軌跡が分かるムービーの上映や、実際に社員が製造現場で働いている場所を見学できる社内ツアー、クイズ形式で会社のことを理解していくワークショッププログラムを一新し、学生が受け身ではなく、能動的に当社の理解が深まる企画にトライしました。
また、その後の選考では実際に社員がやっているコンクリートの溶接作業を体験してもらい、学生は仕事の意義や奥深さを実感することになったのです。
さらに選考の後半では、社長や社員にインタビューを行いながら2日間かけて合宿形式で、自分たちが入社した先のキャリアイメージを具体的にしていくインターンシップも実施したのです。
そして、最後の内定を出す瞬間、社長も内定者も涙するほど感動的だったようです。
学生も入りたい、企業も採用したい、その相思相愛の気持ちを選考プロセスの中で醸成することが成功につながったようです。
大切なことは、大手企業と比べて、全ての面で勝とうとしないことです。
内定者から、「この部分は他よりも上」ないしは、「この部分は他にはない」といったストロングポイントを何か一つつくることです。
「面接」をやめて「面談」にすることの重要性
最近の内定辞退の少ない会社の特徴は、採用担当者やリクルーターが学生と個別に向き合い、将来のことや就職活動の相談にのってあげていることです。
学生と対話する際、一般的な面接ですと緊張感が生まれやすく、学生の本音が聞き出せないものです。学生も選考されると思うと、変なことは言えないと防御心が働きます。
そこで、私がオススメするのは「キャリア面談」といって、学生の未来をお互いに考える場を用意することです。
採用したい学生には必ず個別に時間をとって、次の質問を投げかけながら、目の前の学生にどんな情報や環境を提供したら、学生にとって後悔なき就活ができるかを共に考えていくのです。
左の表に、当社が作成したキャリア面談で学生に聞くべき「10の質問」を紹介してみます。
この質問は、その場の思いつきでするのではなく、1から順を追って相手の立場になって問いかけることが大切です。
学生にとって自分の就活を最も親身になって応援し、アドバイスしてくれた相手になれるとよいと考えています。
採用する側が「審判員」になるのではなく、「伴走者」「応援者」になってはじめて、得られる情報が変わり、何をすれば学生のためになるかが見えていきます。
無理に入社させようとしなくてもいいのです。
本人が入社する価値があると思える情報や環境をしっかりと届けてあげることが、重要なのです。
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