日本で働きたい優秀な外国人が結局、来日しない理由
2019年5月13日
丸山貴宏 :株式会社クライス・アンド・カンパニー代表取締役
日本企業が倍額でオファーしても海外の優秀なグローバル人材が採れない
昨年イタリアで開催された、ヨーロッパを基盤に大学で日本語と日本文化の教育活動をしている先生たちの学会に参加してきました。その先生たちの下には海外の大学で一生懸命に日本語を学んでいて、日本に行きたいという学生がたくさんいます。そこから日本語ができる優秀な新卒人材を発掘し、日本企業に紹介できないかというのが我々の目的でした。
話を聞くと、中にはその国々のトップ水準の大学で学び、母国語に加え英語、日本語を流ちょうに話すトリリンガルの優秀な学生もいます。しかし、実際にマッチングを試みたところ、日本企業からの内定は出ましたが、結果として辞退されてしまいました。その理由は日本企業からの給与提示額が低く、国際競争に負けてしまったからです。
日本企業の場合、平成30年の賃金構造基本統計調査によれば大卒初任給は20万6700円、大学院卒だと23万8700円です。ボーナスも合わせて年収300万円くらいの会社が多いと思います。
ある地方の優良企業は、ヨーロッパ某国の優秀なエンジニア専攻の学生に対し年収320万円のオファーを出したのですが、辞退されました。当初は本人にも日本に行きたい気持ちはあったのですが、その後シンガポールの企業から600万円のオファーが出たのです。倍近い開きがあったら勝ち目はありません。
イタリアで日本語の先生たちに根掘り葉掘り聞いてわかったことですが、優秀な学生、特にエンジニア系の学生に対してはシンガポールやアメリカの企業からそのくらいのオファーが出るそうです。さらに中国では、一定の条件にハマるとそれ以上の金額が提示されることもある、と。
結論として、我々は日本語のできる欧米の優秀な新卒人材をマッチングすることは諦めました。欧米以外であればそれでも日本に来たいという人材はいるので、今後も取り組み続けるつもりではありますが。
給与の安い日本企業が人材獲得競争で負け始めている
日本と海外で給与差が開く背景として、そもそもの物価の違いがあります。
この冬、私は趣味のスキーをしにフランスへ行ったのですが、一日券のリフト代が60ユーロ、日本円にして約7500円でした。
ところが、日本のスキー場では4000円くらい。倍近い差があります。スキー場の食堂でランチを取ると、フランスでは日替わり定食のようなもので18ユーロ、およそ2200円でした。日本では1000円くらいでしょうか。やはり倍近い差があります。
海外と行き来している人は強く感じていると思いますが、欧米の先進国などに比べ日本の物価はかなり安くなっています。
物価が安いということは当然、海外と比較して人件費も安くなり、人材獲得のための日本の競争力は低くなります。
少し前、ニューヨークに帰国するアメリカ人の転職のお手伝いをしたときの話です。日本企業のニューヨーク支社幹部として年収1500万円のオファーが出たのですが、本人は「2000万円ないと生活できない」と難色を示しました。
正直、「このポジションで2000万円は高いな」と内心思ったのですが、実際にアメリカ企業からあっさり2000万円のオファーが出て、そちらに決まってしまいました。物価差もあって、日本の1200万~1300万円くらいが向こうの2000万円くらいの感覚なのかもしれません。
この案件で日本企業に2000万円は出せません。やはり先進諸国の中で、日本の給与の国際競争力は低下しています。
優秀な人材の獲得を妨げる日本の「年功序列型」給与システム
英語が堪能で優秀な人材と、言葉の壁が低く優秀なITエンジニアに関しては今後、ますますグローバルな獲得競争が強まっていきそうです。そうした人たちにとっては、海外に移り住むことさえ厭わなければ大きなチャンスがあるといえます。
最近は減少している海外留学も、投資に対するリターンが大きくなるため増加に転じるかもしれません。
見方を変えると、企業はグローバル人材の確保がいっそう困難になっていく可能性があります。加えて、日本企業の給与面の魅力がさらに低下すると、海外から優秀な人材が来なくなってしまいます。
ダイバーシティが重要になっている現代において、これには強い危機感を持つべきでしょう。
こうした状況を踏まえると、日本企業は従来の年功序列型賃金を変えていかなければなりません。
一般的な日本企業の給与システムは、若い頃は安く、長期的に増加していく「後払い型」ですが、これではタイムリーに優秀な人材を獲得することが困難です。
一部の企業では新卒に対して柔軟な条件を出すようになるところも出てきましたが、まだまだ限定的です。
給与制度そのものを柔軟なものに変えていかないと、優秀な人材が確保できなくなる可能性を、日本企業の経営者や人事はもっと真剣に考える必要があると思います。
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