一橋大学大学院教授の楠木建氏の著書『好きなようにしてください』には、日本の新卒採用や雇用について違和感を覚える者にとって、膝を打つ内容がふんだんに盛り込まれている。
☞人生はトレード・オフ。その本質は「何をやらないか」を決めること。
環境の選択は無意味。「最適な環境」は存在しない。趣味と仕事は違う。
自分以外の誰かのためにやるのが仕事。 仕事にどのように向き合うか。
仕事の迷いに『ストーリーとしての競争戦略』の著者が答えを示す!
例えば、どの会社に就職するかで運命が決まり、「勝ち組、負け組」との思考は、置かれた会社の環境により自己が形成されるという間違った考えだと述べている。つまり、環境に多少は影響されるにしても、本人の本質は変わらないといっているのだ。加えて楠木教授は、仕事は自分のやりたいことをやればよいと述べている。仕事の選択が良かったかどうかは実際に働いてみないと分からない。だから、向いてないとなれば次に行けばいいだけの話だと喝破している。まったくその通りだと思うのだが、先のNHKの番組=NHK就活生応援キャンペーンでは「学生にとって就活は人生を大きく左右する一方で、大卒者の約3割が3年以内に離職し、企業とのミスマッチも指摘されています」と問題視していた。
この懸念は、一般社会の通念を代表していると考えていいだろう。つまり、楠木教授の「離職は好きにすべし」と一般社会の「離職は問題だ」という主張は真っ向から対立しているのだ。これは、NHKはじめ日本では働く人を十把一絡げで考えていることが理由だろう。
これに異を唱える説を楠木教授が著書で述べているので、そこからひもといてみよう。
命令されたことを忠実に実行するのが労役であり、「レイバー」(labor)と呼ばれる。それが、産業革命を経て20世紀になって進化したのが「ワーク」(work)の概念だ。何らかのスキルを労働市場に提供して対価を得る。
ワークには自由意思による相互の契約があり、職業選択の自由もあるのがレイバーと違うところだ。
さらに先に「プレイ」(play)がある。余人をもって替え難い独自のセンス、能力が求められる仕事だ。「プレイヤー」は、プロスポーツ選手や音楽家を考えれば分かりやすいが、ベンチャー企業の創業者や研究者、技術者などわれわれの周りにもたくさんおり、特定分野に収まらない。経営者もワークよりもプレイだという。
仕事の違いをこのように理解すると、先の就社により人生が決まるという考え方は、レイバーに近い。すなわち日本では、特定の会社にレイバーとして入社し、経験を積む中でワークができるように成長していくことが期待されているともいえるのだ。
就職試験に臨む学生も企業の採用担当者たちも、将来、果敢に挑戦する「ワーカー」に成長するかもしれないレイバーの選定のために会しているわけだ。
変革やイノベーションが求められている現代の企業には、プレイヤーが求められている。
既成概念を打ち破り、新たな価値を見いだすには高度なスキル、自立した精神と失敗を厭わないプロ根性が必要だ。
レイバーはもとより、決まった仕事に打ち込むワーカーでは物足りないのである。
プレイヤーが生まれ始めた
ところが、現実はプレイヤーどころか、仕事がワークではなくレイバーに逆戻りしている。
IT産業はその典型だ。システム開発を請け負うIT企業は、その実行を下請け企業に依頼する慣行があり、下請け企業では多くの技術者が納期に追われレイバーとして働いている。
世界中で高度な知識を持つIT技術者が求められているのに、日本ではレイバーとして働かされるため、日本の学生の間ではIT関係の専攻や仕事は人気がなくなってきていると聞く。米国や中国でIT関係の人気が高いのとは対照的だ。
それでも最近、シリコンバレーには光が差し込んでいる。ここ数年、シリコンバレーに進出した日本企業の駐在員は自社の新規事業や企業変革のヒントを探ろうと活発に動き始めている。まだほとんどがワーカー発想で、「情報収集して本社に報告する」ことにとどまっているが、その中から新たな事業をつくり出すプレイヤーが生まれようとしているのだ。
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