2019年1月9日(水)
小山 昇
私の周囲には、悩める管理職がたくさんいます。売り上げが伸びない、部下の士気が上がらない、ライバル会社との差別化ができない……。そういう管理職に共通するのは、悩んだり考えたりする時間をたくさんつくっていることです。
どうしたらこの状況は改善できるだろうか、いかにすればこの問題は解決するだろうか、うんぬんと。私はいつもいいます。
「そうやっていつまでもうじうじ考えているから駄目なんですよ」と。
悩み、考えることのなにが悪い? あなたはきっとそう反論するのでしょうね。
もちろん私とて、部下に対して「もう少し頭を使って仕事をしなさい」と注意することもままあり(注意はおおむねむなしく終わりますが)、だから考えること自体が悪いとか無駄だとかいうつもりはありません。私はただ、「考えるより先にやらなくてはいけないこと・大事なことはありますよ」と申し上げたいです。
そもそも「考える」とはなんでしょうか。一言でいえば、「自分の過去の経験を引っ張り出し、現在の状況に当てはめること」に他なりません。
いまの状況で困っている → でも、似たようなことは過去にもあった → あのときはこれこれの方法で解決したんだった → では同じことをやって解決できるかどうか試してみよう、というような。
ということは、あなたがいま、ある問題が解決できないでいるとすれば、いくら考えたところでほとんど無意味です。
だって、そもそもソリューション(=過去の体験)を持っていないから。
そんなことで時間を無駄に費やすくらいなら、まずはなんでもいいから行動して自分の体験の幅を広げたほうがよほど確実です。
あなたが「うまくいった」「首尾よくできた」ということを思い出して下さい。
たいていの場合で、あなたは無意識にも過去の経験を生かして事態に当たっていたことに気づきます。
解決しない問題は、一人でいくら考えても解決しない
あなたが(必要以上に)考え込んでしまい、なかなか行動に移せない理由はひとつしか考えられません。失敗することが怖いからでしょう。
失敗すれば恥をかく。部下からの信も薄くなるだろう。賞与の査定にだって響きかねない……。
そんな些事で悩んでいる暇があるならまずは行動しなさいですが、まあお気持ちはわからぬでもない。
であればこれはもう、外に知見を求めるしかないですね。すなわち、あなたの同僚なり上司なりに助言を仰いで事態の解決に当たるのです。 「いや、それもちょっと……」とおっしゃいますか? 確かに、普通の人は悩みを自分の中に秘めておくことが多いようですね。
おそらく自分の悩みを口外することを恥と思うのでしょう。しかし冷静に考えてごらんなさい。
悩みを口にする「恥」より、自家撞着的に悩んで業績を伸ばせないでいることのほうがよほど恥です。
繰り返しますが、現状解決しない問題をいくら考え抜いたところで解決はしないですよ。
「じゃあ小山、お前はどうなんだ」と問われそうなので先にお答えしておきます。
私は問題を一人で抱え込むことはしません。酒席で、あるいはミーティングで、どんどん他人に話して意見を聞きます。
もちろん、それで問題が解決するかといえば、まずたいていの場合で「しません」。
しかし少なくとも状況の整理はできる。整理ができれば「すべきこと」「切り捨てること」がしゅん別され、一歩出口に近づけます。
いまでこそ順調な武蔵野ですが、私がいまよりもっと未熟な経営者だったころは何度となく倒産の危機を迎えました。
過去にはTVの報道ヘリコプターが飛ぶほどの大事故を起こしたこともあります。
社有車がタワーパーキング内の火災警報器とぶつかり、消火ガスがビルのテナントにまで漏れ出してしまったのです。
「消火ガスを吸った人がばたばたと倒れている」との第一報を受けた私は、青ざめて現場に急行しました。
ビル関係者に一生分の罵声を浴びながら、ひたすら頭を下げ続けたのを私はいまでも昨日のことのように思い出します。
後にこの事故は駐車場管理人のミスとビルの構造的欠陥によるものであることが判明したため、わが社の金銭的負担はほとんどなくて済みました。しかし全容が解明されるまでは、さしもの私も「終わりだ。今度こそ武蔵野は終わりだ」と、夜も眠れないほど苦しんだ。
しかし、こうした経験は現在すべて私の財産となっています。
あのとき、どうして経営危機に陥ったのか。そしてどうして立ち直ることができたのか。
それを逐一トレースすることで、的確な経営指針が得られるからです。
止まない雨も明けない夜も、いままで一度もなかった。現在、あなたが直面している問題だって、わたしがかつて経験した悩みと同じことです。歯を食いしばってやり過ごし、そして時には周囲をうんざりさせながら、なんとか乗り越えてください。
その辛い体験はあなたにとってかけがえのない財産になる。そう考えることができれば、あらゆる人にとって「無駄な過去」は存在しないことになります。
あなたは「あのとき、ああしていれば良かった」「そうすればこんな思いはしなくて済んだものを」なんて考えて後悔したりはしていませんか。
しかし、ああ「しなかった」からいまのあなたがあり、いまこんな思いを「している」から未来のあなたがつくられます。
前段の「あらゆる人にとって『無駄な過去』は存在しない」をもっと強くいえば、あらゆる人にとって「過去はすべて善」です。
他人と過去は変えられない。しかし自分と未来は変えられる。
いま、わが社がおおむねうまく行っているのは、過去の失敗を教訓として怠らず学び、小さな改善を大量に重ねてきたからです。
いまの悩みや苦しみも、いつかは過去のものになります。
それが今後の糧となるか否かは、その悩みや苦しみの中からなにをつかみ取れるかにかかっています。
(取材・構成=諏訪弘)
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