関東から東北地方に強い風雨をもたらし北上中の台風13号。ここ最近の台風といえば、従来に比べて速度が遅くなっているように感じられますが、その原因はやはり「環境の変化」にあるようです。健康社会学者で気象予報士の河合薫さんは、米海洋大気局気象気候センターの研究者がNature誌に寄稿した論文等を引きながら、台風の移動速度が落ちた理由や激しい雨をもたらすようになった訳について記すとともに、災害から身を守るための「早めの決断」を呼びかけています。
温暖化で変わる台風の姿
みなさま、台風は大丈夫でしたでしょうか?
関東地方では雨風共に強くなりますし、高潮の被害も予想されています。できればこんな日は会社も臨時休業にしてもらいたいです。それほどまでに最近の気象現象は「過去の経験」が通じなくなっていることはみなさんも「肌」で感じているのではないでしょうか。
最新の研究では、「ハリケーンや台風などの熱帯低気圧の移動速度が数十年前より遅くなっている」ことがわかりました。
Natureの6月号に寄稿された論文の筆者、米海洋大気局(NOAA)気象気候センターのジェームズ・コーシン氏によれば、
「熱帯低気圧は1949~2016年に、全体の移動速度が平均で10%低下している。上陸後に速度がより低下する地域もあった。
特に、太平洋北西部では上陸後の台風の速度が30%も低下していた」とのこと。その理由について、
「極地の方がほかの地域より温暖化が速く進んでいるせいで、気圧の勾配に変化が生じ熱帯低気圧を移動させる風が弱まっている」
としています。
台風は偏西風などの大きな風の力で流されます。日本に上陸すると途端に速度を増すのも、日本上空の偏西風に台風が乗るためです。
ところが温暖化の影響で、偏西風が極端に弱くなったり、日本列島の上空に吹いていないなどの状況が頻発しているのです。
台風の移動速度が遅くなれば、同じ場所に長時間雨が降り続けることになり、土砂崩れや河川の氾濫の危険性が高まります。
特に日本列島は「ジェットコースター並」と言われるほど、急勾配の河川が多く、河川の氾濫は避けて通ることはできません。
西日本豪雨のときと同様の被害が、あちこちで頻発する可能性が高まっているのです。
今から20年ほど前。温暖化による気候変動に関心が高まっている頃、「台風の変化」を予測する試みを世界中の気象学者たちが行いました。発生数に関しては「増える」「減る」「変わらない」と意見は分かれましたが、強さは関してはほとんどの研究者が「強まる」としました。
実際、2000年後は台風が来るたびに「戦後最大級の台風接近!」というフレーズが繰り返されましたし、私自身、台風の雨雲をレーダーで見たときに、「うわぁ、こんなにきれいなスパイラルバンド見たことない!」と驚いた記憶があります。確か2004年頃だったと思います(記憶が曖昧でごめんなさい)。
スパイラルバンドとは「台風の周囲の渦巻き状の雲」のことで、この雲がかかると突然強い雨が降ります。
台風の目の周りを取り囲むように、クルクルと雲ができあがるのです。
ただ、クルッと目の周りを雲が取り囲むにはよほど強い風が吹いていないと無理。半分に切れたり、バラけてしまったり、「スパイラル」というより「カンマ」型になった雲しかそれまでは見たことがありませんでした。
ところがそのとき(2004年)レーダーに映っていたのは、台風の目の周りを「クルクル」っときれいな渦巻き状になった雨雲でした。
災害をもたらす危険な雲なので不謹慎ではありますが、実に美しく。
一方で「台風」が変ってきているというリアルを突きつけられ抱いた「恐怖感」は今も心の奥底に残っています。
最近は「気候変動はこれまでの予想をはるかに超えるレベルで、ハリケーンや台風の危険をすでに増幅させている」との意見も増えてきました。琉球大学や名古屋大学などが、飛行機で台風の目に近づいて内部を直接観測する技術を確立したことで、進路予測の精度は最大で16%向上しました。
先人たちが台風から人々を守るために、富士山頂でレーダー観測を始めたように今後も「人を守る技術」はより詳しく、より丁寧な予測を可能にすることでしょう。でも、それを生かすも殺すも「私たち」自身です。
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