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岸田退陣とデフレ脱却政策の裏にある真実

なぜ値上げに苦しむ国民を放置するのか?

斎藤満

2024829

927日に予定される自民党総裁選挙を前に、多くの議員が立候補を表明し、政策の指針を示しています。しかし、注目すべきは、岸田総理が推し進めてきた「デフレからの完全脱却」という政策の再考が必要であるという声です。国民は今、物価高騰に苦しんでおり、この状況でのデフレ対策はむしろ逆効果となりかねません。 

岸田総理の退陣表明を受け、新政権は個人と市場のバランスをどのように取るのか、日本経済の行方に注目が集まります。


【参考】デフレ脱却「失敗」の歴史

バブル経済崩壊後、日銀は25年にわたり異例の金融緩和策を繰り出してきたが、デフレからの完全脱却は果たせず「失敗」の歴史が続いた。植田和男総裁は2%の物価目標の持続的・安定的な実現が見通せたと判断、マイナス金利を解除したが、賃金と物価がともに上昇する好循環が持続せず、日本経済が長期停滞から抜け出せなければ、「拙速な正常化」との批判を浴びるリスクがある。

 日銀不信を募らせていた安倍晋三氏は、12年末に首相に返り咲くと、総裁に積極緩和論者の黒田東彦氏を指名。13年4月に国債を爆買いする「量的・質的金融緩和(異次元緩和)」が始まった。2%目標を2年程度で実現する短期決戦で臨んだが、物価は伸び悩み、マイナス金利政策や長短金利操作など異例の緩和策を次々と繰り出した。

 異次元緩和の長期化は、日銀が国債発行残高の5割超を保有するなど副作用も生んだ。昨年4月に就任した植田総裁は、「積年の課題だった2%目標達成というミッションの総仕上げを行う」として、長短金利操作の運用を柔軟化するなど「出口」に向けた地ならしを進めた。

 総需要が拡大する中、持続的な賃上げが適度な物価上昇に波及する好循環が続けば、追加利上げも視野に入り、金融政策の正常化がさらに進む。ただ、みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「潜在成長率が0%台にとどまる日本が、米国と同じ2%目標を持続的に達成するのは極めて困難」と指摘。日銀は引き続き難しいかじ取りを迫られる



「デフレからの完全脱却」を目指す政策は有害無益

927日の自民党総裁選挙に向けて多くの議員が立候補を表明、政策の指針を示すといいます。

そこでは改めて国民目線の政治に戻ることを期待したいと思います。

その第一に期待したいのは、24年度の「骨太方針」を見直すことです。特にその冒頭で「デフレからの完全脱却を目指す」としている点です。今の日本に「デフレからの完全脱却」するための対策は有害無益です。

国民はデフレではなく、物価高に苦しんでいて、物価が上がり続けることを誰も望んでいません。

「賃金物価の好循環」を提示して国民の目を物価高からそらそうとしていますが、賃上げをしてもその分、物価が上がれば生活は楽にならないことは自明です。

 

なぜ今、デフレからの完全脱却を目指すのか

そもそもデフレからの完全脱却とはどういうことなのか。

内閣府の定義によると、「物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがないこと」としています。

常識あるエコノミストに聞けば、今日の日本で持続的に物価が下落しているのか、その状況になる見込みがあるのか質せば、よほどのへそ曲がりでなければそれはあり得ないと見ます。

つまり、今日の日本はデフレでもなければ、デフレに陥るリスクもほとんどありません

むしろ国民にとってインフレ(物価が持続的に上昇する状態)こそが最大の問題です。

こうした状況を無視して、「骨太方針」で冒頭に「デフレからの完全脱却を目指す」としているのは、冗談か、何か国民には言えない特別な狙いがあるとしか思えません。

その点、デフレ脱却を掲げて行っていることを見れば、その狙いが透けて見えます。

「骨太」を公表する直前に岸田総理は日銀の植田総裁と会談。そこで岸田総理は植田総裁に「利上げは困る」と伝えたといいます。政府としては日銀に大規模緩和を続けさせたく、その方便として「デフレ脱却」を使っています。

実際にはもう2年以上前から政府日銀の掲げる2%の物価目標を超える物価上昇が続いていて、異次元緩和を続ける必要性はないのですが、政府はインフレを認めず、日銀も「まだ基調としての2%インフレには到達していない」とうそぶきました。

つまり、政府には日銀が緩和を続けることで得られるメリットがあることになります。それは何か。

直接的には金利が低いままで、財政当局は金利コストを抑えられます。また国債を大量発行しても、日銀が毎月6兆円をめどに購入してくれるので、国債の買い手に苦労しませんでした(今後は買い入れ額を漸減します)

間接的にはインフレでも低金利を続ける日本から資本が海外に流出し、円安なります。

これは日本の資金を導入したい米国は歓迎します。NISAブラック・ロックなどが日本マネーを米国に引き込むことを狙って日本政府に働きかけ、岸田総理がこれに答えました。

実際、これで15兆円もの日本マネーが米国株式市場に流入しました。そして円安は日本の企業には収益拡大要因となり、財界は歓迎します。

) ブラックロックは、グローバルに資産運用、リスク・マネジメント、アドバイザリー・サービスを提供している世界最大の資産運用会社。運用資産残高はグループ全体で総額5.97兆米ドル(約673兆円)

政府日銀はその副作用である輸入コスト増について、企業に価格転嫁を促し、最終消費者に付け回しをし、企業の負担を軽減し、物価高で売り上げや名目GDPが増えて政府の税収が増えます。昨年度の税収はおかげで70兆円を超えました。

つまり、デフレの完全脱却と称して日銀に大規模緩和を続けさせることで、岸田政権のパトロンであるバイデン政権に「貢物」を献上し、財務省の利益に供し、財界の収益改善に貢献できます。

その被害にあうのは家計だけですが、そこは「賃金物価の好循環」と言ってごまかし、電気代の引き下げなどで不満解消を図りますが、それで国民が納得するわけではありません

 

岸田総理退陣の意味

このように、個人を犠牲にして米国バイデン政権、日本の財界、金融市場という政府のパトロンに貢いできた岸田総理が退陣表明しました。

1つには米国でCFR(外交問題評議会)がバイデン大統領に見切りをつけたように、日本の岸田総理にも見切りをつけた模様です。

また仮にトランプ政権となれば岸田政権は維持できません。

ポスト岸田政権は米国と新たな関係を模索する中で、貢ぐだけでなく日本の主張を示すチャンスになります。

また岸田総理は退陣表明の会見で、自民党の裏金問題にトップとして責任を取るといいました。

政治資金規正法の改正などは不十分で、裏金問題に決着をつけられないままの退陣となりますが、少なくともこれまでのような政府と財界の癒着、カネのつながりは細ることになります。

届け出る必要のないパーティ券の金額が引き下げられたことは、パーティ収入の顕著な減少につながり、財界とのパイプも細ります。

 

新政権は個人と市場傾斜

財界との金のパイプが細る分、与党は市場を重視することになりそうです。

裏金問題が露呈したとはいえ、政治に金がかかる事実、政治は金次第という事情に変わりはありません

資金調達で財界ルートが細り、派閥のトップからの資金配分もなくなれば、あとは市場から「仕手株」などの収入を得るか、金融機関からの借り入れに頼らざるを得なくなります。

政府は世論を味方につけるために「金融悪者論」を通してきましたが、その裏で金融機関とはこっそりつながり、資金調達の重要なルートにしてきました。

派閥、財界ルートが期待できなくなれば、おのずと市場ルートの資金に頼らざるを得なくなります

金の裏付けを持った組織票への依存が弱まれば、政府も直接投票者としての個人に目を向けざるを得なくなります。

退陣表明前に、岸田総理は大票田でもある高齢者支援を打ち出し、年金受給世帯への支援を提案しています。

これまで少子化対策に傾斜する中で、高齢者の医療費負担を高め、社会保険負担を高めて財源としてきましたが、票を左右する高齢者をないがしろにできなくなったためです。

その高齢者をはじめとして、個人にとって最大の問題はすでに2年以上続く目標を上回るインフレへの対応です。

賃上げをうたったところで、企業がそのコストをまた価格転嫁して物価が上がれば、生活はいつまでたっても楽になりません。物価を上げずに賃金が増える図式が必要で、そのためには企業の生産性を上げるしかありません。 

新政府は賃上げ要請から一歩前進する必要があります。




 

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